「空間を再定義する」というミッションを基に、シェアスペースにまつわる事業を行う株式会社クルトンの共同代表 森実 勇樹さん。今回は現在注力するワークボックス事業スタートの経緯や投資としての優位性について伺いました。
森実勇樹:スペース予約サイトの作成サービス「upnow」レンタルスペースの運営代行サービス「METRO MINUTES」1人用の防音ワークブース「Pao Work」などシェアリングエコノミーを通じたスペースの価値の再定義を行う株式会社クルトンで共同代表を務める。
株式会社クルトン:https://crewtone.jp/
―森実さんがスペースシェアの事業に目をつけたきっかけは何だったんですか。
創業当初、共同創業者の青山とどんな事業をやるかというのを話していたんです。マーケットのサイズがそこまで成熟していない、大手が参入していないところを狙おうということで、一番初めに目をつけたのが民泊でした。
当時Airbnbが日本に上陸して間もない、民泊に関する書籍も当時ほとんど出ていないような時期で、民泊のリアルが知れるセミナーをやったら人気が出るんじゃないかということで、民泊セミナーを行っていました。そこからご縁があり、ポータルサイトを運営する企業の方に声をかけていただき、民泊メディアを立ち上げました。ここで民泊新法という転換点がありました。民泊を規制する法律ができたことで、メディアとして欲しかった情報の価値が少し薄まり、このままいくと収益機会を失っていくのではないかというところから、事業の転換を決めました。
民泊メディアを運営しながら、ホストと運営代行会社では運営代行会社の立ち位置が非常に重要で、尚且つ収益も出ていることがわかったんです。そこでレンタルスペースの事業に転換し、当時1社もなかった運営代行をやろうということになりました。
民泊メディアを経ての気づきがあり、同じシェアリングエコノミーであるレンタルスペースの運営代行にピボットしたという流れですね。
―レンタルスペースの中でも、現在ワークボックスの事業を精力的に行われているかと思いますが、コロナの前後でワークボックスの市況にはどのような変化がありましたか。
コロナ前は、ワークスペース=貸会議室という認識でした。貸会議室でいくと、収容人数の多い大型会議室をやった方が儲かる、これが常識だったんです。これがコロナでガラッと変わりました。コロナが流行り始めたときに、一番人気が出たスペースが4人から6人の会議室でした。
当然30人から50人入るような会議室は、密を避けろとか言われてた時期で全然予約が入らない。でも、4人から6人の会議室は予約が入ってました。そこで予約内容を見てみると、1人でZoomで使ってる方が非常に多くいらっしゃいました。今まで大型というトレンドだったのが、1人のためのお部屋の方が今後当たるんじゃないかということで、まずは今まで会議室にしていたような部屋をミニマルワークスペースという名前をつけて1人用の仕事部屋にしてたんです。1人の仕事部屋を提供したら、これが1日4回転とか稼働していて、めちゃくちゃ当たったんです。究極に言うと、部屋でPCを開いてズームしてるだけ。25平米もいらないんじゃないかという話を、突き詰めていくと最終的には2㎡のボックスという形になりました。
―コロナを機にできていったのがワークスペースなんですね。では、最近の変化やトレンドはありますか。
やはりコロナが明けて、週5日出社する会社が増えてると思うんです。ただ、週5日出社の会社が増えた今の方がコロナ禍真っ只中の期間よりも、ワークボックスの売り上げは上がってます。これは、週5出社でリアル商談が増えつつ、Zoomでの商談も減ってない、出社とオンラインがミックスされてる状態なんです。そうなると朝営業で商談に行って、その後zoom会議だとかいうことも増えてきて”街中で1時間だけZoomできるような場所”ここの需要がすごく高まっています。なので、1年前2年前よりも、予約数も売り上げも上がってる状態です。
―ワークボックスの投資のとしての魅力はなんですか。
たくさんありますが、単純に面積当たりの売上高が高い。ここが究極かなと思っています。
例えば最近ニューオさんに紹介してもらった横浜の15㎡のリネン室です。
実際に内見に行きましたが、近くに線路が通っていてうるさいんです。普通なら決まらないところを、ワークボックスだと、15㎡の部屋にボックスを3台入れて運用できる。面積あたりの収益性が第1ですね。
第2が運営の楽さ。パーティースペースのように人が集まってお酒を飲んだりするような用途だと、物損や騒音のトラブルが起きやすい。ワークボックスは一人でZoomをしに来るだけなのでトラブルがほとんど起きないです。当然騒音トラブルもないので、精神衛生上楽というところが2つ目に大きいと思います。
3つ目は参入障壁が高いというところ。国内でワークボックス製造してる会社って7、8社ぐらいしかないんです。
他社だとボックス1台の平均価格でいうと大体150万ぐらい、弊社がメーカーさんと直接作っている商品だと、1台平均80万ぐらいで設置が可能なので、真似しようにも中々できないところが大きいかなと思います。
―普通なら決め手が付きにくい物件が多いので、遊休不動産の活用という面でも貢献度が高いですね。
そうですね。例えばうちがパーティースペースしか運用していないとしたら、パーティスペース用の物件しか選べない。複数ある物件の中から「これなら会議室」「これはダンススタジオだったらいける」「ワークボックスだといける」という風にレパートリーが増えることで拾える物件数も増えてくる。不動産は物件ありきなので、物件の中から何件を捨てるのか、何件を拾えるのかというのが会社の収益性を大きく左右します。これは会社の事業としても大事なポイントです。
―飲食店(デニーズ)でのワークボックス設置というのはどのような背景で実現されたのでしょうか。
弊社は「空間を再定義する」というミッションを掲げています。個人・法人を問わず、空間を再定義するというミッションの中で、様々な目的を持つお客様がいます。
デニーズさんに関して言うと、その当時ファミレス業態からテイクアウト専門の店舗に業態に切り替えたいというご相談をいただきました。要はお店のスペースが全て余るわけです。デリバリー事業をやりつつ、お店の無駄な部分を収益化したいというご相談に対して、ワークボックスの設置を提案させてもらいました。結構面白い効果もあって、ワークボックスの利用後にご飯を買って変える人や、食べて帰る人が増えたので「ついで買い」として売り上げも上がっているんです。
同じようにファミリーマートさんにも、店内でついで買いを増やしたいという目的でワークボックスを導入してもらいました。利用者の3人に1人ぐらいが、平均で500円くらい店内で買い物をというデータがあって、ワークボックスとしての収益を上げつつ、お店の売り上げにも貢献するというのが弊社としても理想的ですね。
―ワークボックスPaoの作成でこだわった点はなんでしょう。
ワークボックスって消防法との戦いで、消防法に準拠した形で作る必要があるんです。ボックスの中は実は防音しすぎていても駄目で、外で警報が鳴ったときに聞こえる必要がある、しかし快適に会議をするためにある程度防音性が欲しいというところの塩梅が大変でした。
あとは、レンタルスペースの会社ならではのワークボックスにしたいという思いがありました。普通の会議室の机だったら奥行き45cm程度が良いとされています。というのも昔の会議では、ノートや手帳を広げることが多く奥行きが必要だった、しかし今はPCがメインになるので、奥行き40cm程でも十分なんですよ。収容台数を増やして売上が上げられるように、無駄がないサイズで作ることにこだわりましたね。
―Paoの名前の由来はなんですか。
これはメーカーさんが付けてくださいました。ボックスは解体できて、組み立ててまた別の場所で使えるんです。移動しながら使用できるという意味で遊牧民のパオから由来しています。
―移設できることで持続性も担保できますね。
そうですね。パーティスペースの場合もしも騒音トラブル撤退になったら、工事代や内装費用が無駄になっちゃいますけど、パオならを解体してまた使えるので非常にサスティナブルでもあります。
―ワークボックスに適したエリアはどのように選定しているのでしょうか。
弊社では現在50拠点ぐらい設置していますが、エリア選定の際には、最寄り駅の乗降客数の多さを見ています。ビジネス街立地で、尚且つ全国チェーンのカフェが多いエリア、この辺りは特によく見ているポイントですね。
―なるほど。乗降客数というと目安はどのくらいですか。
基本は1日10万人以上で見てます。
―ニューオで何軒か仲介させていただいていますが、当社を選んでいただく理由はありますか。
物件の件数とレスポンスの速さです。当日でも内見対応してくれる。スピードが第一の業界なので。
―今後はどんなスペースに需要があると思いますか。
今はアフターコロナが定着して、1人用のワークボックスに加えて超大型に振り切ったところに需要が出てくるのではないかと思います。この3年間収益が出ておらず撤退しているためです。一気に軒数が減ったので、ここでまた一気に需要が高まるのではないかと思いますね。
―最後に、森実さんの今後の展望を教えてください。
ワークボックスの全国トップシェアを取りたいですね。
今トップシェアを取っているのがテレキューブさんで、1万台くらいボックスを売っていて、その中でも時間貸しをしているボックスが1300台くらい。弊社が今全国で400台程を設置しているので、そう考えると難しい目標ではないかと思います。